2012年11月11日

大きな数 (3/4)

 去る2010年10月11日, コンピュータ将棋がプロ棋士に挑戦するという世紀の一戦が行われました。この時対戦したのは, 当時女流王将の称号も持っていた清水市代。さすがにまだまだコンピュータが平手(ハンデなしという意味)でプロに勝つ事はないだろうと言われていたものの, 何とものの86手でコンピュータ側が勝利。世間を驚かせました。
 この時のコンピュータ将棋ソフトですが, 実は市販されているソフト4種類のベースとなるソフトを使い, それらが1手1手計算してはじき出した最善手4つを, 更にこれらソフトの多数決にて1つに絞るという「合議制システム」を取り入れていました。
 そしてこのシステムの名称(このコンピュータ将棋ソフトの名称と言っても良いでしょう), 覚えていますか?
 正解は「あから2010」。
 さて, この名称に隠された「意味」とは, 一体どのようなものだったのでしょうか。


 前回までで, 無量大数でも表記しきれない数が無数に存在することは述べました。よく考えれば当たり前のことですが, 良く「天文学的数字」と言うように, 宇宙の果てまでの距離をミクロン(100万分の1メートル)で表しても無量大数まで行かないわけですから, とても人間が想像できるような数ではないような気もします。
 特に, このシリーズ冒頭でも紹介した「組み合わせ」の世界では当然のようなこのような想像を絶するような巨大数が登場します。「フカシギの数え方」では10×10の場合の順路までしか登場しませんでしたので, その組み合わせの数も25桁の数止まりでした。1無量大数は69桁の数。73桁以上になると無量大数でも表すことができなくなります。そしてこの順路の組み合わせの数も, 18×18の場合に79桁の数となりますので, 無量大数というような単位でも表現できない領域に達してしまうのです。今日現在, 21×21の場合までしか求められていませんが, この場合は遂に100桁の大台を超え107桁の数となっています。更に大きな盤面で順路を数えようとする場合, 更に計算時間を掛けるか, はたまた更に効率の良いアルゴリズムを編み出すしかありません。
 いずれにせよ, もう「天文学的数字」なんて表現では全然足りないのです。宇宙の果てをも超える想像力が必要になってきます。

 さて, 冒頭の将棋ソフトの名称となっている「あから」。語源は「阿伽羅」, 読み方は当然「あから」。何だか中国語のような名称ですが, 実はこれも数の単位だというのです!
 もうここからは筆者にもサッパリわからない世界に突入するので, Wikipediaの記事を参考に書きます。ご了承ください。
 それは「華厳経の巻第四十五, 阿僧祇品第三十」と呼ばれる仏典に記述されている命数法。何と123種類の「上数」と呼ばれる命数法が記されているらしく, 10の5乗, つまり6桁の数を「洛叉」と呼び, 「100洛叉」, つまり8桁の数を「倶胝」と呼び, これを「上数」の最初としています。
 以下, 10の14乗(15桁)を「阿庾多」, 10の28乗(29桁)を「那由他」(先に紹介した「那由他」は10の60乗でした), 10の56乗(57桁)を「頻波羅」と呼び, ここまでは先に紹介した巨大数の命名法「無量大数」の範疇に収まっています。
 ここまでで気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが, この命数法は10に乗る指数が倍々になっていることが特徴です。これはその1で紹介した「万進」とか「万万進」を思い出していただきたいのですが, 最も効率の良い命数法と言えます。
 そこで, 次の単位は10の112乗(113桁)と一気に跳ね上がります。これを「矜羯羅」と呼ぶようです。そして次は10の224乗(225桁), これを「阿伽羅」と呼びます……そう, 今回登場の将棋ソフトの名称になったあの「阿伽羅」です!

 その由来は, 数学の「組み合わせの数」にも関係ありました。
 将棋は, 先手と後手が1手ずつ駒を進めることによって成り立つゲームですが, たった9×9の盤面に裏表合わせて14種類の駒しかないにもかかわらず, 盤面全体が同一になることは殆どありません。
 初期の盤面を1通りとします。ここからは将棋の駒の動かし方がわかる方にしか理解できないかも知れませんが, 先手が最初に指す事に出来る駒は17種類, どこまで進めるかということも考慮に入れると初手としてあり得る手の数は30通りとなります。この30通りの盤面に対し, 後手の手は果たして何通りあるか……と考えていくと, 将棋はルール上いつかは勝負がつく(引き分けも含めて)ので, パターンの総数を計算することができることになります。
 このパターンの総数が, だいたい「阿伽羅」という単位を用いる数に近い数だというのです!
 これを「天文学的数字」と呼ぶのなら, 宇宙の果てなど何てちっぽけな数値なことか! 「数そのもの」ではなく, 数の「桁数」が10分の1に過ぎないのですから……

 さて, 話は更に続きます。
 この「阿伽羅」, 先に紹介した仏典から持ち出した単位のまだ6番目。全部で123種類の単位が示されているとのことでしたが, 更に10の上に乗る指数が倍々になるのでしたから, この最後123種類目の数の桁数は「阿伽羅」の「2の117乗」倍になっているはずです。
 そして, その最後となる123番目の単位は「不可説不可説転」, その桁数は何と「37218383881977644441306597687849648129桁」! 一体何が起きたのやらと言いたくなるこの桁数, もはや「桁数そのものが超巨大数」となっています。みなさん, この数の大きさ, 想像できますか? 1桁を1ミクロンで書いたとしても, この桁の数を宇宙全体の直径内に一列に表記することはできないくらいの巨大数……まさに「想像を絶する」とはこのことです。

 さて, もう巨大数も良いだろうと思ったアナタ。
 それは甘い!
 人間の想像は, この「不可説不可説転」すら遥かに凌ぐ領域に達しているのです……
ラベル:大きな数
posted by ma-. at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 数字・統計 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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